世界からのワイン情報

2020年ポルトガルワインのヴィンテージ情報

2020 Wines of Portugal ヴィンテージ情報~気候変動に耐え品質を保つ古来品種~

全体

2020年は春の畑を襲った霜害と豪雨、夏期には気温の急上昇など生育シーズンを通して異常気象に見舞われた難しい年となりました。夏は観測史上最高の暑さを記録し、かつ病害も発生したため、ほとんどのワイン産地で生産量の減少となりました。このような状況においても、ぶどう栽培農家の献身的な努力により、2020年の収穫時にはぶどうの品質は良好に保たれ、良質なワインができたと期待されています。

2020年12月、生産者からの収穫量の申告に基づいた、ポルトガル・ブドウ・ワイン研究所(Instituto da Vinha e do Vinho、IVV)の発表によると、2020年度のポルトガルワインの総生産量は2019年度の3%減の、630万ヘクトリットルと報告されました。産地によっては生産量が増加した地域もあり、リスボンでは前年比24%増の生産量となりました。一方ではアソーレス地方のように、収穫の2週間前に降った雨によって、42%減と生産量が大幅に減少した産地もあります。その他、タヴォラ・ヴァローザ(39%減)、ダン(27%減)、ドウロ(26%減)と生産量が大きく落ち込んだ産地も少なくありません

生産地別ヴィンテージ情報

Vinho Verde ヴィーニョ・ヴェルデ
Vinho Verde ヴィーニョ・ヴェルデ

冬から春先にかけての適度な降雨により順調にぶどうの生育が始まりました。5月は平年よりも気温が高く、いくつかのサブリジョンでは熱波が発生した地区や、雷雨や雹などの被害が出た地区もありました。そのため、生育の早い時期にベト病や黒腐病が発生し収量の低下につながりました。7月の暑さは異常で、気温が41℃に達する地区もありました。その後は異例の暑さとなった9月を除き、安定した気候を保ってくれました。北部の山岳地帯や大西洋の影響を受ける冷涼な地域では、安定した成熟が可能となりました。サブリジョンのモンサンでは、アルバリーリョの品質が高く評価されました。白ワインはフレッシュで、非常に優れたアロマと力強さを伴い、良い重量感とストラクチャーを持った味わいが期待できます。赤ワインは、色が濃く、豊かな味わいを持ち、熟した果実の特徴、滑らかなタンニンに加えバランスのとれた酸味を持つ長期熟成のワインとなりました。

Douro ドウロ
Douro ドウロ

収穫量は2019年の26%減となりました。冬の降雨量は平均を超え、続いて寒くて雨の多い春となりました。4月から5月にかけては、病気(ベト病、ウドン粉病)の発生が多く見られました。その後は気温が急上昇し、5月から9月にかけては、非常に暑くて乾燥した気候が続きました。8月に少し雨が降り、水分不足による、ぶどうの樹のストレスが軽減したものの、それ以外はほとんど雨が降らず収穫期を迎えることになりました。特に6月から8月にかけて、3回の大幅な気温の上昇となり、平均気温を押し上げました。この熱波によってぶどうの日焼けが発生し、生産量が低下してしまう結果をもたらしました。白品種の収穫が8月初旬に始まり、全ての収穫が10月初旬に終わるという、記録的な早さで収穫を終えました。

白品種では、ヴィオジーニョ、アリント、マルヴァジア・フィーナの品質は良く、赤品種では、トゥリガ・ナシオナル、ティント・カン、スーザォンが極端な気温によく耐えましたが、トゥリガ・フランカは暑さによって脱水の兆候が見られ、生産量が大幅に減少しました。一般的に、白は良いフェノールの成熟度がありバランスの取れた酸味を持ったワインとなりました。赤ワインは、色が濃く、アロマが高く、優れた果実の凝縮感、熟したタンニンがあります。

Trás-os-Montes トラス=オス=モンテス
Trás-os-Montes トラス=オス=モンテス

最終的な収穫量はベト病やウドン粉病などの病害や日焼けなどの影響で、実際の生産量は平均の22%減となりました。気候条件は他の近隣産地と同様、夏季は高温に見舞われました、この産地は気候変動が顕著ですが、近年より深刻になってきているようです。冬から春にかけての雨量の多さにより、年間を通して水分ストレスの現象を解決してくれました。ただ、受粉期に雨が降り結実が悪く、生産量が減少しました。さらに霜や雹に見舞われ、収穫量の減少を止めることはできませんでした。9月には雨が降り、平均気温が下がり、品質面では過剰な糖分上昇を押さえることができ、フェノールの成熟を待って収穫ができました。ぶどう品種では、トゥリガ・フランカの品質は素晴らしく、洗練されたタンニンと良質な酸味を併せ持つバランスの取れたワインが期待され、長い生育期間のおかげで、長熟のワインとなりました。

Távora Varosa ダヴォラ・ヴァローザ
Távora Varosa ダヴォラ・ヴァローザ

収穫前に35%減となると予測されていましたが、春の霜とその後雹の害により、生産量は39%に近い大幅な減少となってしまいました。それでも、収穫の終わり頃には天候が安定し、雨が少なかったことで果実の発育が促進され生育期間を通して病害の発生も少なく、夜は涼しく、昼夜の温度差が大きく熟成が進み、品質的には満足できるヴィンテージとなりました。果実風味のあるバランスのとれた白ワイン、そして糖度が中程度であったにもかかわらず、黒ぶどうはフェノールの成熟が良く高品質の赤ワインとなりました。トゥリガ・フランカとティンタ・ロリスが特に楽しみです。

Beira  Interior ベイラ・インテリオール
Beira  Interior ベイラ・インテリオール

当初は、前年並みの生産量を予想していましたが、霜、雪、雹の発生により生産量は低下しました。今年度は新たに植え付けた畑も多かったのですが、最終的に15%の収穫減となりました。減少の主な原因は、3月下旬から4月上旬にかけての霜と、5月に発生した雹でした。萌芽期は理想的な気温で、春から初夏にかけての降雨により、土壌に十分な水分が確保され、ぶどうの木はバランスのとれた成長時期を送ることができました。熟成の最終段階で気温が高くなりましたが、生育期の初めに降った雨によって土壌中の水分が蓄えられていたため、成熟プロセスが損なわれることはなく、収穫に大きな影響はありませんでした。
トウリガ・ナシオナル、シラー、ティント・カン、バガなどの晩熟の品種は健全なぶどうがワイナリーに運ばれました。北部や標高の高い畑では、シリアやフォンテ・カルなどの白品種やティンタ・ロリスなどの赤品種に顕著な酸味があり、通常よりも高いレベルの酸を持つぶどうが収穫され、エレガントでさわやか、そして優れた熟成能力を持つワインになることが期待されます。

Dão ダン
Dão ダン

遅霜や一部の地域で発生したベト病の影響で、27%減少しました。寒くて雨の多い冬に続いて、暑くて乾燥した夏という、ダン地方の典型的な気象でした。地域によっては霜害があり、生産量が低下しました。暑くて乾燥した夏にもかかわらず、夜は気温が下がるという、昼夜の温度差が顕著なこの地域特有の気象条件により、ぶどうの酸味を保ったぶどうが収穫されました。黒ぶどう、白ぶどうともに理想的な状態でワイナリーに運ばれ、レセプションでの検査では、果汁のバランスが良く、素晴らしい酸度を持っていることが分かりました。品質面では、白ワインは魅力的なアロマを放ち、洗練されたテクスチャーと良好な酸味のバランスが取れており、特にエンクルザドとグヴェイオは良い年となりました。収穫量が少なかったため、赤ぶどうは赤や黒のベリー系の力強い香りに加えて、魅力的な香りがありました。一般的に、赤ワインはバランスが取れ、しっかりとしたストラクチャーを持っていることが期待されます。トゥリガ・ナシオナルとアルフロシェイロの品質の良さが際立ちました。

Bairrada バイラーダ
Bairrada バイラーダ

各産地の収穫量が落ちる中で、バイラーダは生産量が8%増加しました。気温が高く、朝の湿度が高く、生育期の初めは数日にわたって雨が降ったにもかかわらず、ぶどう栽培農家はベト病の害を抑える努力を怠らず収穫増となりました。

夏は暑くて乾燥していたため、収穫が早まり、スパークリングワイン用のぶどうは、前年より10日早い8月第1週に収穫を開始しました。白ワイン、赤ワインともに、フェノールの成熟度が高く、糖度も適切で、酸味もバランスが取れ品質への期待が高まりました。 夏が特に暑かったバイラーダの一部の産地では乾燥によるぶどうの脱水症状が見られた地域もありましたが、そこを除いてはバガの品質は適度な熟度で良好な酸のバランスを持つ素晴らしい年となりました。白品種では、アリント、ビカル、マリア・ゴメスが糖度と酸味のバランスが良く、バイラーダにおける2020年ヴィンテージはグレートイヤーになると期待されています。

Tejo テージョ
Tejo テージョ

5%の生産量増加がありました。開花時に若干の降雨がありウドン粉病が発生しましたが、量や質を損なうほど深刻ではありませんでした。6月、7月、8月に気温のピークが長く続き、夏に平均気温を上回る日が続いたにもかかわらず、日焼けやぶどうの樹へのストレスもなく、7月末にフェルナン・ピレスから収穫が始まり、ぶどうは健全な状態でワイナリーに運ばれました。9月中旬にはほとんどの白ぶどうが収穫され、魅力的なアロマと酸味のバランスの取れた満足できるワインとなりました。赤ワインについては、9月に雨が降たものの、すでに80%以上の収穫が終わっており降雨の影響はほとんどありませんでした。夏の高い気温によって、カステリャンとトリンカデイラがそして、トゥリガ・ナシオナルやアリカンテ・ブーシェなど多くの赤品種が良い結果を出しました。

Lisboa リスボン
Lisboa リスボン

リスボンの生産量は前年比24%増となりました。春は温暖で降雨もあり、湿度も平均より高かく、ベト病やウドン粉病の発生が心配されましたが、大きな被害とはなりませんでした。8月から9月初旬にかけての高温による、穏やかなぶどうのストレスが良い影響を与え、凝縮した品質への良いぶどうが収穫されました。収穫は例年より1週間早く始まり、量的にも質的にも良い年になると見込まれています。特に海に近い畑では涼しい風の恩恵を受けることができました。白ワインとロゼは、力強い果実味と優れた酸味を備えています。白は特にアリントとヴィタルの出来が良く、赤ワインは、果実味がはっきりとした、凝縮感のある、熟した滑らかなタンニン、バランスのとれた酸味、平均よりも高いアルコール度数と素晴らしい特徴を持つワインとなりました。品種では、トウリガ・ナシオナル、アリカンテ・ブーシェ、ティンタ・ロリスが注目に値します。

Península de Setúbal ペニンシュラ・デ・セトゥーバル
Península de Setúbal ペニンシュラ・デ・セトゥーバル

3月と4月にベト病が発生し、開花時には花振るいと結実不良が発生したにもかかわらず、6%の収穫増となり、品質面でも満足できるヴィンテージです。夏の気温は全体的に穏やかでしたが、気温が35℃以上になった日が数日あり、主にモスカテル種で日焼けが見られました。ただ、ここでの気温の上昇は植物の発育を妨げるほどではなく、成熟過程は均質で、糖度と酸度のバランスが取れたぶどうが収穫されました。生育期間の長い品種と暑さに強い品種に特に良い結果が出ました。

Alentejo アレンテージョ
Alentejo アレンテージョ

霜、雹、日焼けによる被害にもかかわらず、前年を13%上回る生産量となりました。その理由は今年新たに生産を開始したぶどう畑が生産量を押し上げたためです。平均気温は過去21年間を上回り、降水量も同時期の平均を5.5%上回ったため、収穫前に土壌中の水分を十分に補給することができました。また、春先の気温が高かったため、植物の生育速度が急激に進み、開花が前年より10日ほど早くなりました。4月から5月にかけての湿度と気温の上昇によってウドン粉病が発生しました。7月後半には、高温と乾燥による熱波で起こる日焼けを抑えるためキャノピーマネージメントを注意深く行い、ぶどうの木がストレスを受けないように水分量を定期的にモニタリングする必要がありました。

夏の気温は依然として高く、成熟速度がさらに進みました。一部の生産者は、7月の早い段階で収穫を開始しました。ただ、気温が高かったため、ワインの酸度は低く、pH値は高くなり、通常よりも少しリッチで重く、フレッシュさに欠けると感じられるワインになってしまいました。いくつかの生産者が造るアリントとアンタン・ヴァスからはよいワインができました。赤ワインは色が濃く、果実の凝縮感、熟したタンニンがありました。アリカンテ・ブーシェ、トリンカデイラ、トウリガ・フランカなどの暑さに強い品種は良い結果を出し、シラーなどの暑さに弱い品種はやや苦戦したといえます。

Algarve アルガルヴェ
Algarve アルガルヴェ

収穫量は15%増加するだろうと予測されていましたが、結果として10%減少しました。気候条件は概ね良好でしたが、水不足による生産量の落ち込みが主な要因となりました。夏にグリーンリーフホッパー(Jacobiasca lybica)が発生しましたが、カビによる病害はほとんどありませんでした。問題は降雨量が少なく、暑くて乾燥した気候によって7月後半には一部の房が日射病に見舞われたことでした。白品種の収穫は8月上旬に始まり後半に赤品種が続きました。品質面では、赤ワインは色が濃く、フェノールの成熟度が高く、果実味が強く、熟したタンニンをもつ凝縮感があります。が、アルコール度数は高く、酸は低めです。暑さに耐えることができるシラーとアリカンテ・ブーシェは赤ワインとしてのポテンシャルを発揮しました。白ワインはアルコール度数が中程度で、酸味は通常よりも低めとなりました。最高の白ワインは、バランス感覚、エレガンス、新鮮さを保つことができ、特に早摘みのソーヴィニョン・ブランや、アリント、クラト・ブランコ(シリア)が評価できます。

Madeira マデイラ
Madeira マデイラ

非常に難しい年でした。異常気候は2019年12月に始まり、雨と風に加え、考えられない雪が降るという異常な寒さでした。1月と2月の平均気温は、日中は20℃、夜間は14℃と日較差によって休眠中のぶどうの樹に影響を与えました。平均気温が高かったため、芽吹きが早く、約2週間も早く生育が始まりました。4月は雨が多く、逆に5月と6月は全体的に乾燥していて気温が高かったため、果房の成長は順調に進み開花も2週間早くはじまりました。平均雨量が6mmの6月に、降雨量が70mmに達した日が2日ありました。これによって、島の北側ではベト病、ウドン粉病、黒腐病の発生し、防除におわれました。白品種の品質は良く、特にセルシアルとヴェルデーリョは優れた酸味、優れたストラクチャーそしてアロマの強いワインとなりました。また、黒品種のティンタ・ネグラも良い品質を示しました。一般的に言って、マデイラ島の2020年ヴィンテージは非常に優れた品質の期待できるワインとなるでしょう。

Açores アソーレス
Açores アソーレス

2020年はアソーレス地方の生産者にとって非常に厳しい年となりました。結実がまばらで、生産量の減少がこの時点で予期されました。5月から6月にかけての雨によってベト病とウドン粉病が発生し、追い打ちをかけた8月の降雨はぶどう畑の状態を悪化させ、最終的な数値は予想よりもはるかに悪い前年比42%の減少となりました。8月の雨の前に収穫されたテランテス・ド・ピコとヴェルデーリョだけは害を逃れ、高品質に達する可能性がありました。雨の後に収穫された他の品種では、ボトリティス菌が発生しました。