ポルトガルワイナリー視察レポート

Real Companhia Velha- 2023/5/16 訪問 レポート:佐野 敏高

車をDouroはCima Corgo地区まで走らせると自然と人間によって作られた絶景に興奮が止まりませんでした。
遠目で見ると美しく仕立てられた葡萄畑ですが、急勾配で滑りやすく難しい畑仕事を強いられることは容易に想像できます。

Real Campanhia Velhaは1756年にジョゼ王の命を受けて創られた最も伝統のある生産者であり、複数の農園を所有します。
Quinta das Carvalhas, Quinta dos Aciprestes, Quinta do Casal da Granja, Quinta do Sibio, Quinta de CidroなどDouroの最上の畑を所有しています。当日が32歳の誕生日だったPedro Silvaさんに案内をいただきました。
Qunta das Carvalhasの畑へはツアーバスで丘を登りましたが、ガタガタ道を進むと急に標高が高くなりあっという間に断崖のような畑の頂上へと。ちょうど周りには植樹をするべく荒廃した畑への杭打ち、畝作りのためのライン引きをしているなど、極限の環境で畑を整備する苦労を知ります。(物資を運ぶのも大変、そもそもUNESCOの世界遺産に登録されているので景観を崩すことができないなど制限もたくさんあります)

Pedroさんいわく自然の生態環境に手を加えることをしない、名もなき植物たちがローマ時代から生態系を作っている。サステイナビリティーを大切にして人為的な介入はなるべく行わないことを大事にしているとのことでした。
どんなに良く高価な機材を使用したり、負荷のかかる作りをしてもいいものはできない。葡萄の質こそがもっとも大事だと。
風抜けのいい畑で力説してくれました。この畑は混植で3500―4000本ほどの密植、極限の環境下では昼夜の寒暖さがものすごい。
ワイヤーとテラスで畑を作るため機械化が難しいので馬と小さな工作機を使って畑仕事をすることもあるようです。
そして、灌漑については植樹して5年目までは行なっていること、それ以降は無灌漑で行なっていく。(アルヴァリーニョ地方では降雨量が著しく低く灌漑をせざるえなかった、など別の生産者で聞いていたので、とてもすごいことだと思いました。)

面白いなと思ったのが、Pedroが生み出したシリーズ・コレクションと呼ばれる実験的なセレクションです。伝統葡萄を回復させてボトリングする従来のワインつくりとの差別化を意識した取り組みの一環です。Touriga Branca, Samarrinho, などの知られていないような葡萄を混植の畑から選りすぐり醸造・ボトリングしていきます。

テースティングで感じたことは伝統的に作り続けてきたPort, Douroワインのスタイルでは会社の継続は難しい、時代に求められているスタイルを作らなくてはいけない、そんな自社内の商品分けが明確だったことです。2022年にプレスリリースをしたQuinta de Cidroで造られるDandyシリーズはその最たるものでしょうか。
もともと、味わいの集中力があり、長期熟成を求められるようなエネルギーあふれるワイン、その対極としてのジューシーでみずみずしく、飲み心地のいいリフレッシュワインとしての立ち位置を模索していたようです。
DOURO地区の功労者であるソヴェラル侯爵の姿にインスピレーションを受けたワインとして低アルコール、エレガント、これまでとは異なるDOUROワインを表現し、新しい市場の模索と消費者の求めるものに応えるシリーズです。
とても飲みやすく、アルコールのいやらしさのない快活なワインでした。ガストロのミックなワインとチャーミングで気兼ねなく飲めるワインの棲み分けを意識した作品でした。

その他、2008年産のCabernet Sauvignon, Touriga Nacionalで造られるQuinta de Cidro Marquisは素晴らしく、フランス ボルドー地方で認可されたTouriga Nacionalのことを思い出しました。そろそろボルドーでもTouriga Nacionalがブレンドされたワインが出てくるのかもしれませんね。そういった未来を意識したかのような素晴らしい熟成を経たワインでした。

案内をしていただいた時に、Quinta das Calvalhasの丘の頂上に位置する改修中の邸宅が一棟貸しをするツアリズムの拠点とするんだよと言っていました。この美しいロケーションで息を呑むような景色を備えた邸宅で飲むワインは美味しいのだろうなと思ったのでした。

人柄と自然への愛情と感謝を表現する。時代の変化に対応する新しい風が吹いている生産者さんでした。