ポルトガルワイナリー視察レポート

CVR Dão (ダンワイン協会) - 2023/5/17 訪問 レポート:佐野 敏高

DOURO地域のNiepoort訪問から1時間半ほどのドライブでCVR. Dão に到着しました。

Dão はポルトガルの最高の赤ワイン産地の一つとして評価されてきた地域です。山岳地帯に囲まれた同地は高品質なワインを作るための理想的な条件が整っています。1908年にはDOCとして認可されましたが、政治的な介入、地域の歴史によって、経済発展が困難なものとなりました。そのため1960、1970年代に作られたワインのクオリティは貧相なものだったそうです。

ワインはViseuの町周辺の田園地帯で先キリスト時代から生産されていたそうです。19世紀末には輸出市場で成功をおさめました。
当時この地域で栽培されていた主たる葡萄は90%ほどがTouriga Nacionalでした。Dão にフィロキセラが到達したのは1881年頃ですが、Touriga Nacionalはその前にフィロキセラ禍に陥ったドウロ地方へも不足した葡萄を補う名目で転用されたそうです。(Touriga Nacionalはボルドーでも2021年より気候変動に耐えうる品種として植栽が開始されるなど将来性のある品種です。)
フィロキセラ禍の後は、Touriga Nacionalは地位を失い早急に収益をあげるために、多くの栽培者が収穫量の高い品種や交配品種を栽培するよう激励され、小規模栽培者が小区画で葡萄を栽培したり、家庭用のワインを造っていたそうです。
その後、サラザール政権に移行したのちに、協同組合ネットワークが導入されたことによって混沌としていきました。
政府に管理された体制は、基本的なワインの品質向上には貢献しましたが栽培者にとって品質向上に対してのインセンティブがなかったようで、葡萄の品質管理ができなくなり平凡なワイン作りになってしまったようです。

1986年に欧州連合への加入をきっかけに1990年に国家の統制から解放されました。つい最近のことです。

ダン評議会(CVR)は、原産地呼称(DOP)を持つワイン(またはその他のワイン製品)の生産と販売に関与する経済活動者の利益を代表する組織です。この組織の役割は、その真実性と品質を保証しながら厳格な調整と管理をすることです。これらの活動はワインの生産から販売までの全過程を含み、全ての業務において組織の技術検証が存在します。同時に、C.V.R.ダンはワインの認証と証明の役割を果たすために首元につける認証シールを授与し、ワインのプロモーションも担当しています。
現在の協会長はペドロさんです。物腰が柔らかく終始笑顔で対応してくださいました。

元々は留置場だった石造りの荘厳な建物を使用してさまざまなワインや地域に関わる催しを行ったりしているようです。

当日は6生産者の皆様がワインを持ち寄りフリーテースティングが行われました。
・Julia Kemper Wines
・Quinta da Fata
・Quinta das Queimas
・Chão de São Francisco
・Quinta dos Roques
・Alameda de Santar

総括していうと、生産者の個性、畑、葡萄の個性をとても大事にしていてガストロノミックなワインが多かった印象です。
そして気候変動に対していろいろな試みを行い、将来的な葡萄栽培や醸造方法の転換についても考えています。
(Dão 北東部の山火事によって大切な畑が焼失してしまったのは記憶に新しいです、、、)
Dão の環境を愛し、その生態系を守りながらワイン造りを続けるAlamedaのPatriciaさんが作るピノノワールのロゼワインのジューシーさと昼夜の寒暖さがつくる美しい酸味が印象的、葡萄の質が高く無灌漑ゆえの背骨の張ったボディバランスが美しい赤ワイン。
Touriga NacionalとAlfrocheiro種の見事な調和が優しく体に染み入りました。アルフロシェイロ種のキノコのような香りの個性よ!とお話をしてくれて、納得したものでした。
Chão de São FranciscoのSoniaさんは2年前までは弁護士、お父さんの跡をついでワインを造るのですが、最愛のお母様の不幸があったりと自分自身で前を向きさまざまな実験をしながらワインを造っています。これが‘私のワインなの’という悲しみを乗り越えて、愛する土地を表現したワインなのよと。いただいたワインは混植の白ワインChão do Vale Lafoes DOP, 2019 赤ワインはField Blend 2017、各葡萄が楽器の役目を担い、畑という楽曲を美しく奏でたオーケストラ調子のダイナミズムを感じた。指揮者である生産者のソニアさんの笑顔が味わいとしても溶け込み、胃袋を優しく刺激しお腹が空くような作品に仕上がっていた。
Quinta dos RoquesさんはDão の代名詞ともいうべきLuis Lorencoさんの実験的なアプローチから全てがはじまったように思える。
息子のJoseさんとはたくさんお話をした。単一品種でエンクルザードをワインに仕立てたのもお父さんの功績だし、Uva CãoやTinto Cãoの名前になぜ犬(Cão)の名称がつくのか、Malvasia Finaの単一ワインを作るときの数年をかけて実験を繰り返した苦労話など。
Dãoの最高峰のワインの一つ、Touriga Nacional 2005年の飲ませていただき、長期熟成を経てさらなる味わいの高みに至るワインが多いことが理解できました。

夕食を一緒にいただいた時も、ポルトガルの歴史、日本の歴史、そして政治や文化に至るまでさまざまな知識を持ち合わせている方が多かったのが印象的でした。ワインは人が造るものです。思慮深く、毎日の生活をしっかりと見つめてワイン作りをしていました。
過去の歴史から遺伝子レベルで理解しているのでしょう、収量を上げてお金儲けがしたいわけじゃない。クオリティの高い葡萄をつくってDãoの地域をワインで表現したいのだと。